慕情そして恋情…<つかつく> 8.
引っ越しが完了し、翼は燥いでいた。
「母さん、俺の部屋も有るよ‼」
翼から、言われた『母さん』。
初めて、言われて、つくしは少し戸惑っていた。
“今まで、『母ちゃん』だったのに…。”と…。
「そうだね。
今まで、進と同じ部屋だったもんね。
良かったね。」
そうなのである。
つくしと進が働き、両親がパートでも、働いていたので、そこそこのマンションに住めていた。
部屋数も、つくしと進が子供の頃と比べものに成らないくらい増えていた。
実は、築年数は15年のマンションだったが、お風呂付の3LDKだったのだ。
それでも、進と翼が一番広い部屋では有ったのだが、相部屋にしてもらわないと、部屋数が足りなかったのだ。
楓からは、“身一つで来てくれて構わない。”と、言われていたので、身の回りの物だけ、持参した。
マンションに着いて、びっくりしたのだが、指紋認証のエレベーターを上がり(勿論、楓社長の秘書さんが登録してくれた。)、部屋には、楓社長の秘書さんが誘導してくれた。
部屋の中は、最新鋭のキッチン道具、電化製品、家具、生活用品が揃っていた。
勿論、つくしと翼の下着から、普段着、外出着…。
つくしに至っては、仕事着用にスーツも…。
翼には、英徳中等部の制服も…。
それぞれ、つくしと翼の部屋のクローゼットに用意されていた。
翼が燥ぎたくなる気持ちが分かるつくしだった。
多分、翼が居なければ、つくしは燥いでいたかも知れなかった。
つくしと翼は、リビングで寛いでいた。
【ピンポーン】…そんな時に、玄関のチャイムが鳴ったのだ。
不審に思ったつくしだったが、インターホンに出た。
「はい。」
「つくしかい。」
「えっ‼
タマ先輩ですか?」
「そうだよ、空けとくれ。」
「はい‼」
つくしは慌てて、玄関の扉を開けた。
「先輩っ‼」
「つくしぃ~‼」
二人は、涙を流しながら、お互いがお互いを抱き締めながら、再会を喜んでいた。
其処に翼が、玄関に来て、一言、言われてしまった。
「何してるの?
玄関先で…。
中に入ったら…。」
そして、つくしとタマは、リビングに入った。
タマは、驚愕していた。
「おやまあ、本当に、司坊っちゃんの中学生の頃にそっくりだ事。
司坊っちゃんの記憶が有れば、泣いて喜んだろうに…。」
タマは、再び、泣き出した。
「つくし、奥様から連絡が有ってね。
つくしと翼坊っちゃんが、“マンションに住むから宜しくね。”と、言ってらしてね。
あたしゃ、吃驚ってもんじゃなかったよ。
やっと、あたしの夢が叶うんだね。」
「先輩、そんな大げさな。」
「それと、もう、つくしは使用人じゃないんだよ。
『先輩』はお止め。
つくしは何れ、『道明寺夫人』に成るんだからね。
『タマ』と、呼びな。」
「いくら何でも、それは言えません。
せめて、『タマさん』で、お願い出来ないですか?」
「了承した。
それで良いとするよ‼」
翼は怪訝な顔付きで、つくしとタマを見ていた。
「母さん、使用人をしてたの?」
「これには理由が有ってね。」
「翼坊っちゃん‼
タマが追々、両親の馴れ初めを教えて遣ろうね。」
「ちょっと、タマさん、余計な事は翼に教えないで下さいよ‼」
幾日か経ったその後、こうして、翼は、タマから、両親の馴れ初めを聞く事に成った。
翼は、思っていた。
“進兄ちゃんの話しを聞くだけでも相当ヤバかったのに…。
タマさんの話しは、その上を行く、強烈さだな‼
堪えられないくらい、恥ずかしかった(苦笑)…。”と。