やっぱり、私は…<総優> 28.
<優紀side>
私は、家元夫人が仰って下さっていた時間通りに、朝、目覚ましの音で目覚め、総二郎さんを起こさぬ様、ベッドから出て、シャワーを浴びる為、シャワーブースに向かった。
そして、家元夫人が待って下さっているという客間に行き、ヘアメイクさんに、ヘアメイクから支度してもらい、家元夫人に振袖を着付けて頂いた。
私は、家元夫人から、言われた言葉に、涙が出そうに成って来た。
嬉しさの余り…と、言う事は、言うまでも無い。
「優紀さん、総二郎を、真面目に仕事に向かう様にしてくれて…。
総二郎を『男』にしてくれて、有り難う‼
私(わたくし)は、心の底から、優紀さんに感謝して居るのよ。
総二郎のお相手が、優紀さんで良かったわ。
これからも、総二郎を宜しくお願いしますね‼」
「有難うございます。
私の方こそ、これからも、宜しくお願いします。
今日のお支度も、本当に、有難うございます。」
私は、家元夫人の言葉に、更に、嬉しさが込み上げていた。
「何を言ってるの?
優紀さんに、此の振袖を着付けてもらえて、振袖も喜んで居るわね。
年代物だけど…?」
「年代物程、価値が有ると、私は思って居ます。
年代を感じさせず、色も綺麗ですし…、色褪せて居ない。
近年の物なら、こうはいかないと思います。」
「有り難う、優紀さん‼」
<総二郎side>
優紀の心根を知ったお袋は、笑顔で、優紀を見ていた。
誰もが、茶道界斬っての『笑わない家元夫人』・『冷たい、冷めた女性』と、言われているお袋が…だ。
此のお袋の姿を、誰もが見れば、驚愕される事、間違いない光景で有ったのは、言うまでも無い。
俺は、優紀の支度が出来たと、使用人から連絡を受け、着物を着付けて居るで有ろう、客間に向かった。
俺は、襖を開けて、優紀を見て、俺は第一声が、出せなかった。
優紀が着付けていたお袋の年代物の振袖は、藤色の地に、裾には孔雀が1羽描かれて居て、其の孔雀の羽の模様が、振袖全面に描かれていた。
所々(特に肩の辺り)に、小花の模様も描かれていた。
帯は、赤と金色の帯で、帯締めは黒だった。
着物と帯は、京都の着物作家の作品らしい。
お袋の若かりし頃に作られた振袖なのに…。
優紀のイメージとは、また、違ぇ感じなのに…。
それが妙に合って居て、妖艶で、艶やかで(あでやかで)…。
俺、“やべぇ‼”と、成って居た。
また、後でお袋から聞いた処に寄ると…。
俺は、その時、微動だにして居なかったらしい。
俺の代わりにお袋が、声を発していた。
「優紀さん、総二郎は、声も出せないみたいね。
余りにも、お美しく成った優紀さんを見詰めてるだけよ、総二郎は…‼
我が息子乍ら、吃驚ね。
その素っ頓狂な表情…。
初めてじゃないかしら…。
そんな総二郎を、私(わたくし)が見たのは…?」
俺は、お袋の言葉で、意識がはっきりした。
「………、優紀っ‼
今日は、俺の傍に居ろよ‼
離れるな‼」
俺の素っ頓狂な言葉に、優紀はきょとんとしてやがる。
俺は、生まれてこの方、親の笑い顔等、見た事ねぇと思うが…。
優紀の代わりに笑っているお袋を、俺は、唯、見詰めていた。
「総二郎、相当、焦ってるわね⁉
この際だから…。
優紀さん、総二郎を翻弄させて上げなさい‼
おーほほほほほほほほ‼」
顎に、右手の甲を斜めに当てながら、上向き加減で、思いっ切り笑ってる母親って…。
如何なんだ…⁉
優紀と言えば、未だ、お袋の言った言葉の意味が理解されて居ねぇ様子で、如何したら良いのか…⁉
その場で、おどおどして慌ててやがる。
純情過ぎるのも、俺には、手に追えねぇわ‼
まあ、だからだろうな…。
優紀を苛めたく成るのは…⁉
だが、俺は、お袋には、嗜める言葉を掛けて居た。
「お袋っ‼
いい加減にしてくれ‼
優紀が、ビビってんだろ⁉」
「優紀さん、こんな事じゃあ、総二郎のお相手は、大変よ‼
もう少し、逞しく成らなきゃね。」
「お袋っ‼」
「はいはい。」
ほんと、全く‼
だが、考えたら、優紀のお陰なんだよな。
この家(西門邸)に笑いが有るのは…。
使用人達まで、吃驚してやがる。
もう、西門家としても、優紀は、手離せねぇ存在だろうな⁉