泣かずに居られるのなら…<つかつく> 3.
漸く、つくしも、此の生活に慣れ過ぎて居た頃、つくしの前に、一人の女性が現れた。
それは、類の母親だった。
つくしが、驚愕したのは、言うまでも無かった。
その日まで、何の音沙汰も無かった類の母親の登場に…。
つくしは、何か、違和感を覚えていた。
「つくしさん、お久し振りね?」
「はい、ご無沙汰して折り、申し訳御座いませんでした。」
「かなり、体調も、良い様ね。」
「はい、御子息のサポートのお陰で…。
感謝しております。」
「そう、其れは、良かったわ。
類も、貴女によって、救われたらしいから…。
お互い様ね。」
「そう言って頂けると、有難いです。」
此処まで話しした所で、類の母親の口調が違って来た事に、つくしは、更に、違和感を覚えていた。
「でもね、つくしさん。
もう、この状態は、花沢家にとって、何のメリットも無いのよね。
つくしさんは、類に恋心を抱いて居ないのよね?」
つくしは、正直に、間髪入れずに、応えていた。
「申し訳ありません。」
余りの正直さに、呆れると言う寄り、『つくし』らしさを感じていた、類の母親だった。
「はっきり、仰るのね。」
「勝手して居た事は、申し訳無く思って折ります。
寧ろ、有難いと思って居ます。」
類の母親は、此処からが本題と言わんばかりに、つくしに訊き出そうとしていた。
「そう…。
其れじゃあね、つくしさんにお訊きしたい事が有るのよ。
つくしさんは、類に恋心を学生の頃から、今も抱いて居ないのよね?
今でも、司さんがお好きなのかしら?」
つくしは、この事に関しては、正直に応える事は出来なかった。
正直に言えば、つくし自身の自制心が崩れる様な気がしていたからだった。
「其れは…?」
「そう…。
其れが、答えかしらね?
其れなら、つくしさんにお願いが有るの。
だったら、類の前から、居なく成って欲しいの。
もう、十分でしょ。
類は、十分過ぎる位、貴女に尽くしたわ。
もう、お返しはしてるんじゃないかしら…?」
つくしは、お礼の言葉を類の母親に述べて居た。
「御子息には、十分過ぎる位、頂戴しました。」
「だったら、つくしさんも、一人の人生を見詰め直す良い時期じゃないかしら…?
もう、類を利用しないで欲しいの?
類から、離れてもらえる?」
「………」
つくしは、勿論、其の時期が来たと理解していた。
何時までも、類に甘えて支えて貰う時期は、もう、既に、過ぎていると…認識していた。
「類も…ね。
もう、26歳なのよね。
其れが、意味している事は、お分かりよね?」
つくしは、類の母親のその言葉だけで、十分だった。
「はい、認識しています。
類さんに、私を支えて頂き、力に成って頂いて感謝しています。
そして、勝手して申し訳ございませんでした。
類さんに、宜しくお伝え下さいませ。」
そして、つくしは、類の傍から、離れる決心をした。
そして、つくしは、日本を離れる覚悟をした。
丁度、担当の弁護の仕事が片付いた所だった。
次の弁護の依頼との、丁度、間だった。
この機会に、事務所の退職を決意したつくしだった。
事務所には、急な退職を詫び、退職の手続きを済ませた。
そして、つくしは、渡英した。
そして、丁度、その頃、司の記憶が回復していた。
司は、朝、目覚めた時、全てのつくしの記憶が戻っていた。
司は、急な出来事に、少し、パニックを起こしてしまった程だった。
司は、NYに渡米後、司の傍につくしが居なかった頃…。
所謂、司は、つくしの記憶を失くした事で、つくしと知り合う前の頃より、更に、人が変わった様に、『冷酷非道な男』に成り下がっていた。
どんな女性を楓が宛がおうとも、全く、見向きもしなかった。
だが、司に政略結婚の意思が有ろうと、無かろうと…。
“政略結婚はしてもらう‼”と、楓は、司に伝えていた。
それに対して、当の司は…。
「俺は、名前貸しだけなら了承する。
どんな女が、俺に宛がわれ様とも、一緒には、住む気もねぇ。
結婚式・披露宴も俺は、出ねぇ。
勿論、婚約発表の席にも、就かねぇ。
だから、婚約指輪も、結婚指輪も要らねぇし、無しだ。
パーティーも、同伴が要ろうと無かろうと、パートナーは、同伴しねぇ。
それで、良いなら、構わねぇ。」
楓は、“其れでも良い。”と、言わざるを得なかった。
で、相手方には、取り敢えず、結婚式がない、披露宴も執り行わない、婚約発表も無し、発表は、FAXでの書面のみ…。
司自身からは、“一緒に住む事は無い。”と、言って居る事を伝え、婚約指輪も、結婚指輪も嵌めたいなら、相手方が、勝手に用意して嵌めるという、異例の結婚を相手方に了承させていた楓だった。
勿論、司は、『婚約指輪』処か?
『結婚指輪』さえ用意せず、嵌める事も無かった。
そのうち、司の気が変わるかも知れないという僅かな望みを持って、相手方は、楓の言い分を了承していた。
だが、そんな僅かな望みさえ、叶う筈も無く、相手方は、離婚を要求した。
相手方の慰謝料請求と同時に、道明寺HD側からは、相手側の父親の会社との契約解除の申し出が有った。
此れは、提携に加担して居なかった道明寺HD 会長で在る司の父親からの意向で在った。
話しが違うと、揉めたが…。
道明寺HD 会長の鶴の一声で、決定していた。
それは、司の父親が、司の記憶が回復したという、報告を受けての事だった。
そして、離婚が成立した。
勿論、この事実は、FAXでの書面のみでの発表と成った。
この事は、日本にも、速報として伝えられた。