忘れ欠けていた…<総優> 6.
直ぐ様、家元は、家元夫人を呼び出し、優紀について話し出していた。
「総二郎が、ここ最近、真面目に仕事に取り組み出した訳が分かった。」
「如何言う訳でしたの?」
「総二郎は一人の女性に恋をしたらしい。」
「………」
家元夫人は驚愕していた。
“あの総二郎が…?”と…。
「家元夫人も知っているとは思うが、総二郎が恋をしたのは、優紀さんだよ‼
如何も、更さんの高校の後輩だったようだね、優紀さんは…。
その関係で、総二郎と優紀さんは再会した様だよ。
今は、総二郎の一方的な片思いの様だが…。」
「そうだったんですか?
しかし、優紀さんには、お付き合いされている方がお出でだった様に聞いています
が…。」
家元は、優紀の人柄を家元夫人に聞き出そうとしていた。
「優紀さんとは、如何いう女性だ?」
「きちんとした女性ですわ。
一般常識をきちんとお持ちで、出しゃばる事はせず、だからと言って、人の言い成りで
はなく、芯のしっかり持った女性ですわ。」
「優紀さんは、そう言う女性なのか。」
家元夫人はニコニコしながら、答えていた。
「ええ。
私(わたくし)は、総二郎のお相手には、“優紀さんなら良い‼”と、ずーっと、思って
居ましたの。
家元が優紀さんをお認めに成って下さるなら、万々歳ですわ。」
人の見る目の在る家元夫人を、其処まで言わしめる女性という事かと、家元は驚愕していた。
「では、総二郎に合っているのではないか?
総二郎が、優紀さんと再会しただけで、『女たらし』の汚名を返上出来るという事は、
高校の頃にも総二郎と優紀さんとの二人の間には、何か遭ったのではないかと、私は感
じている。
もし、そうなら、総二郎が真面目に成るチャンスじゃないかと思って居る。
家元夫人も、協力を頼むよ‼」
「ええ⤴。
承知しましたわ。」
家元夫人は、“勿論だ‼”と、思って居た。
何故なら、優紀の人間性を熟知しているからであった。
もし、総二郎が優紀と、“一緒に成ってくれるなら…。”と、願って居たのは、他でもない家元夫人だったのだから…。
総二郎は両親の思い等知らず、そうだとも思わず、極秘に優紀との事を遂行する気で居た。
また、家元は、優紀の師事している師匠である西門流の重鎮の元に行き、優紀が茶人として相応しいか尋ねる事にした。
「先生の教え子で、『松岡優紀』さんと言う女性が、先生を師事されている思うが…。
如何いう女性ですか?」
「家元、彼女の事をお調べに成ると言うのは、如何いう意図を以っての事でしょうか?
優紀さん程、素晴らしい女性は居ませんわ。
前に出しゃばらず、他人(ひと)への思い遣りも有り、何処に出しも恥ずかしい女性で
は有りません。
もし、息子が独身ならと、思わずには居られない女性ですわ。
後々には、私(わたくし)の後継者にと、考えておりますの。」
家元は、真実を言わなければ、先を越されると認識したので、この場で伝える気は無かったのだが、協力をしてもらうつもりで伝えた。
「実は、優紀さんは、私共の愚息の総二郎の想い人らしくてね。
直接、優紀さんと接してられる先生に訊いた方が早いかと思いましてね。」
優紀の先生は、驚愕していた。
“あの、総二郎さんが…、恋を…?”と…。
「ですが、優紀さんには、お付き合いをしていらっしゃる方がお出でだったと思います
が…?」
家元は、やはりかと思わずには居られなかった。
「それは、確かな事ですか?」
優紀の先生は、間髪入れずに答えて来た。
「ええ、私(わたくし)、お見掛けしましたから…。
車で、お相手の方に、迎えに来てもらっていましたから。」
「そうですか?
それでも、総二郎は諦めて居ない様ですが…。」
「優紀さんは、思った事は遣り抜こうとする意志の強い処も有る位、芯の強い女性で
すわ。
優紀さんの気持ちは量り知れないと思いますが…。」
家元は、総二郎の勝算は難しそうだと悟ったのであった。