俺に押し付けるな‼【忘れ欠けていた】…<総優> 後半
<総二郎side・回想>
俺は、使用人頭のかよの連絡を受けて、兄貴と連絡を取る事が出来ていた。
兄貴が、西門邸を出て、住居を移した場所は、西門家所有の兄貴名義のマンションの最上階だった。
兄貴だけじゃ無く、俺も、弟の巧三も…。
親父から、財産分与の為に、中等部の俺 と 初等部の弟の巧三も、西門家所有のマンションの贈与を、既に、受けていた。
だから、兄貴が、其処に住居を移した事は、当然といえば、当然な事だったのだろう。
で、兄貴から、部屋の中に招き入れられた俺は、兄貴に食って掛かる様に、話しを訊く事にしたのだった。
「兄貴…。
如何いう意味だよ‼
何で、俺が、今日から、『次期家元』を継ぐ事に成んだよ‼」
兄貴は、申し訳無さそうに、俺に話しし始めていた。
「総二郎には、悪いとは思ったんだ。
けど…。
此れは、俺が、俺の中で、悩んだ結果、何だ。
高校2年に成った頃から、“俺の居場所は、此処じゃない。”と、思う様に成って居た。
俺は、高校1年の頃から、其の当時、初等部の筈の総二郎の方が、茶に長けていると、
俺は、感じる様に成った。
総二郎も、知っているとは思うんだが…。
俺は、初等部の頃から、本を読んだり、勉強したりする方が、性に合って居た。
其れに、俺は、中等部の頃から、医学書を読んで居る方が、心の中は、癒されていた。
だからだったのかも知れない。
自然に、俺の将来の夢は、“『ドクター』に成りたい。”と、考える様に成ったんだ。
だから、俺は、高校卒業後の進路を決める頃に成って、父さんに相談したんだ。
初めは、父さんも、かなり、怒ってたよ。
“西門家の長男の値打ちが無い。”と、言って…ね。
だから、俺は、父さんを説得したんだ。
“医学部に入りたい。”と…。
で、最終的には、父さんから、許されたんだ。
しかし、条件付きだったけど…な。
其の条件は…。
【*西門家を出る事。
*親に頼らず、自分一人で生活する事。】
独立後の俺の住まいは、父さんから、此処にする事 と 大学の学費に関しては、父さ
んから、親の責任として、出してもらえる事には成ったんだが…な。
“生活費は、親に頼らず、自分自身で稼ぐ事。”と、言われたよ。
けど、俺は、嬉しかったんだ。
“俺は、ドクターを目指して良いんだ。”と…。
けど…。
総二郎にとっては、『青天の霹靂』だった事は、俺にだって、分かってる。
此の件に関しては、俺は、直接、総二郎に話ししたかった。
だが、父さんから、“総二郎には、黙って於く様に…。”と、言われてたんだよ。
総二郎…。
勝手に、決めて、済まなかったな。」
兄貴は、一気に、俺に話しして居た。
俺は、兄貴の決意を知ってしまった。
だから、其れ以上、俺は、兄貴に反論する事が出来なかった。
何故なら、俺も、兄貴同様、感じて居たからだった。
“俺の方が、兄貴より、茶に長けてるよな‼”と…。
家元も、其の事は、気付いて居たのか?
兄貴と俺の稽古の時の顔付きが違って居る事も、俺には、薄々、感じていた。
だが、俺自身、其の事で、兄貴が悩んで居る事は知らなかった。
其の当時の俺は、俺で、『次期家元』という柵が無い中で、好きな茶に向かう事が出来る事を幸せに感じて居たのだから…。
『次期家元』を継ぐ事は、西門家の長男として生まれて来た兄貴の重責だと、俺は、認識して居たのだ。
其れが、“何故、次男で在る 俺が、『次期家元』を継がなきゃいけねぇんだ‼”と、思っても仕方なかったと思う。
けど、兄貴の話しを聞けば…。
俺の方が、楽しんで、茶に向かって居た事を、兄貴が、苦しんで居たのだろう事は、理解出来た。
だから、兄貴に言えた言葉だったのかも知れない。
「分かった。
仕方ねぇよな。」
だから、俺は、兄貴に対する気持ちは、理解出来たが…。
家元に対しては、理解出来る状況では無かった。
何故なら、俺の稽古は、尚一層、五月蠅く成ったからだ。
其れも、『次期家元』を襲名した中学3年に成った頃の俺に対して、家元は、俺に茶会を任せる様に成って来た。
“有り得ねぇだろ‼
俺に押し付けるな‼”と、俺は、家元に叫びたかった。
しかも、俺が、高校に入った頃から、家元は、茶会に出ない日が増えて行った。
其れも、俺は、家元夫人から、毎日の様に、家元の事を聞かされる様に成った。
「今日も、家元は、女性の所にお泊りの様だわ。」
俺は、寄り一層、(西門)邸に帰りたく無く成って居た。
何故なら、家元夫人から聞かされる小言 や 親父の悪口 に、俺は、うんざり気味だった事は言うまでも無かったのだ。
其れに、俺が、尚を、嫌気を指して居た事は…。
西門流の重鎮達から、言われる嫌味だった。
「『蛙の子は蛙』だな‼」と…。
家元は、俺同様、若い(中等部の)頃から、『女遊び』が絶えなかったらしい。
で、俺も、中等部の頃から、『女遊び』が始まり、高校に入った頃から、毎日の様に、『女漁り』に精を出していた。
其の事を西門流の重鎮達は、俺に言いたかったのだろう。
家元は、『中年』と呼ばれる歳の頃に成って居るにも関わらず、幾つに成っても、家元の『女遊び』は止められねぇらしい。
だから、家元の性格に似ている俺も、“そう成るだろう。”と、陰で言われていた。
だから、俺は、西門流の重鎮達のご多望に漏れず、『ちゃらんぽらん男』を貫いて居た。
否、そうする方が楽だった事は言うまでも無かったのだ。
で、此の事が切っ掛けで、俺の異名は、高校生にして、『女たらし』と、言われる様に成ったのだ。
だが、俺には、そんな俺を救ってくれた女が二人居た筈だった。
一人は、俺の幼少期の頃に、俺の傍に居た幼馴染の『更』だった。
だが、俺のせいで、更とは、何時しか、疎遠に成って居た。
俺にとっての更は、『初恋の女』だった。
本来は、両想いの筈だった。
俺の事を好きに成ってくれた更…。
俺の幼少期の頃、何時も、俺の事を心配してくれていた更…。
だが、何時しか、そんな更の想いに応えられねぇ俺が居た事も、また、事実だったのだ。
また、俺は、何時しか、更の事を、『妹』の様に観て居る俺が居た事も、また、事実だったのだ。
そして、もう一人は…。
英徳学園の俺達 F4の後輩で、司の婚約者と成った牧野の幼馴染で親友で在り、更の高校の1歳年下の茶道部の後輩だった『松岡優紀』…。
俺は、彼女にのめり込んで行く俺自身の気持ちを避ける様に、俺は、彼女を傷付け続けた。
なのに…。
彼女は、そんな俺に…。
俺の背中を、そーっと、押してくれた。
俺は、そんな彼女の気持ちに応える事は出来ないと思い乍らも…。
彼女の『初めての男』に成る事は、拒まなかった。
そんな俺自身の矛盾した気持ちに、中々、気が付く事が出来なかった。
そんな俺は、『パンドラの箱』の如く…。
俺の彼女への気持ちを、心の奥底に閉まってしまった。
所謂、心に蓋を締めてしまった。
そんな俺が、更に寄って、『パンドラの箱』を開けてしまう事に成る何て…な。
そして、其の後の俺は、心に蓋を締めてしまって居た俺自身を後悔する日が来るとは思わずに居たのだった。
fin