慕情そして恋情…<つかつく> 3.
<翼side>
進兄ちゃんの話しを聞いてから、数ヶ月が経った頃、俺は中学3年に成る前の春休みに入っていた。
朝、起きた頃には、祖父ちゃんも祖母ちゃんも進兄ちゃんも居ず、勿論、母ちゃんも仕事に行った様で、テーブルにメモが置いてあった。
俺は、“もう、中学3年だっつーの‼”と、言いながら、メモを読んでいた。
【今日は、大人は、皆、遅くなる様です。
もう、中学3年だし、一人でも、大丈夫だと思うけど、戸締りだけはしっかりして於い
てね。】
やっぱり、子供扱いじゃん。
そう思いながらも、パンを齧り乍ら、TVを付けて、何気に見ていると、TVに俺と同じ顔の人が映っていた。
否、俺を少し、老けさせた様な人だな。
この人なのか、進兄ちゃんが言っていた俺の父さんは…。
俺は居ても経っても居られなかった。
俺は出掛ける支度をしながら、思い出していた。
母ちゃんが出掛ける時、良く俺に、“帽子を被りなさい‼”と、言っていた言葉を…。
ほんと、髪の癖毛までそっくりとは…。
そりゃあ、今なら分かるわ‼
母ちゃんが、帽子を、“被れ‼”と、言っていた理由が…。
でも、あの頃は、帽子を被る事が面倒臭くて、嫌だったんだよな‼
俺は、TVに出ていた『道明寺HD』という会社のビルの前でうろうろしていた。
TVに映っていた黒くて大きい車が着いたら、キャップを脱いでアピールをすれば良いのではないかと、浅はかに考えて居た。
そして、丁度、車が通ろうとしていた寸前で、キャップを脱いだ。
俺は、この事が切っ掛けで、色々な事が動き出すとは考えても居なかった。
<楓side>
私(わたくし)は、私(わたくし)自身の眼を疑いたくなった。
いいえ、夢を見ているのかと思った。
司ではないかと疑いたく成るくらい、容姿がそっくりで、しかも体格も体系も中学生の頃の司を見て居る様だった。
私(わたくし)は、吸い込まれる様に、車から降り、彼の下に足を進めていた。
「貴方、お名前を何て言うの?」
「………」
彼は、何も答えなかった。
もう一度、訊いた。
「お名前とお年は?」
「牧野翼です。
年は、14歳です。
4月から中学3年に成ります。」
私(わたくし)は、驚愕していた。
「もしかして、貴方の母親の名前は、『牧野つくし』?」
「はい、そうですが。
母を知っているのですか?」
「ええ、とっても…。
こんな所に居ると、目立つから、リムジンにお乗りに成って…‼
早く…‼」
私(わたくし)は、彼を促す様に、リムジンに乗せた。
緊張している姿は、司ではない様ね。
何処を如何見ても、つくしさんの様ね。
東京メープルに行くように、運転手に伝え、地下駐車場から、私(わたくし)のキープしているお部屋に、彼を連れて行った。
「私(わたくし)は、貴方の祖母。
所謂、貴方の父親 司の母親よ。
司が、道明寺司が貴方の父親だと分かったから、あのビルの前に居たんでしょ?
違う?」
「………」
翼は何も答えようとはしなかった。