勘当…<総優> 1.
<総二郎side>
俺は、今、西門邸に居た。
俺には、『松岡優紀』と、いう彼女が、居る。
大学の頃から付き合い出して、かれこれ、5年に成る。
あの『西門総二郎』が、優紀と付き合い出してから、一切、浮気をした事が無い。
俺には、優紀さえ、居てくれれば、其れだけで、良かった。
其れに、もう、優紀以外、抱くに気にも成らねぇ。
人間って、不思議だよな?
大学1年の頃までは、あんなに女遊びをしてたのに…な。
今じゃあ、其れも面倒臭く感じる様に成って来たんだから…よ。
今じゃあ、俺が、大人しく成って来たからか?
親父の下に、見合いの話しがわんさか入って来るらしい。
今日は、多分、其の事を言う為に、親父は、俺を呼び出したんだろう?
だが、俺は、受ける気等、毛頭ねぇ。
其れ処か?
俺には、優紀が居る事を指し示すつもりで居た。
此の5年間、優紀と付き合って居ても、俺に何も言って来なかった親父とお袋だったから…。
まさか、こんなに話しが拗れるとは、思わずに居た俺だった。
【西門邸にて】
親父から、或る白い表紙の物を見せられた。
いかにも、見合い写真と分かる代物だった。
だから、俺は、中も開かず、親父に返した。
親父は、不服そうに、俺に言葉を発して来た。
「総二郎…?
開きもせず、中身を見ないとは、相手方に失礼だぞ‼」
俺は、間髪入れずに、親父に言い返していた。
「断ってくれ‼
俺には、優紀が居る。
俺は、優紀以外、抱けねぇよ。
今の俺は、優紀以外の女を抱こうとは思わねぇ。
それでも良いのか?
西門流には、跡取りが必要、何だろ?
政略結婚をさせるつもりなら、跡取りは出来ねぇな‼」
親父も、負けじと言い返して来た。
「あれ程、遊んで来た総二郎の言葉とは、思えんな?」
「何年前の話しだよ。
もう、5年は経ってんぜ‼
この5年間、優紀以外、俺の傍に置いた事はねぇよ。
其れに、優紀も、俺が遊んで居た事は、知ってる。
だから、優紀には、隠し事は、一切、してねぇし…。」
「「………」」
何も、言わねぇ親に痺れを切らした俺が、続けて言いたい事を言って遣った。
「兄貴だって、西門流を俺に託して、西門家を出たんだ。
俺に、政略結婚させるなら、俺も、此の西門家を出るわ。」
「「………」」
で、尚、何も言わねぇ親に呆れて、其の場を後にしようとした時…。
親父が、口を開いて来た。
「お前が、西門流を出た後は、西門流は、如何成る?」
俺は、呆れて、間髪入れずに、答えて遣った。
「巧三が、居るだろ?
次期家元の座は、巧三に託すよ。」
「何と…?
お前の気持ちは、良~く、分かった。
其れなら、此の(西門)家から、出て行け~‼」
俺は、此の(西門)家から、お去らば出来る嬉しさに、顔が緩みそうに成っていた。
何故なら、何の柵も無く、優紀と過ごして行けると踏んだからだった。
だから、親父に答えて遣った。
「ああ。
そうさせて、貰うわ。」
で、俺は、其の場を後にした。
俺が、(西門)邸を出た後の床の間では、親父とお袋が、言い合いに成っているとは、知る由も無かった。
【家元と家元夫人の会話】
「あなた…?
何て事を、総二郎に仰ったの?
まだ、巧三では、次期家元の器では無い事位、家元も承知でいらっしゃいますでしょ?
総二郎の手腕を買っていらっしゃったのは、他でもない、家元じゃ在りませんか?
如何為さるおつもりですか?」
家元は、目を閉じ、腕組みをした状態で、胡坐を組んだまま、瞑想しているかの様だった。
だが、目を開けたと同時に、家元夫人に言葉を交わしていた。
「放って置けば良い。
其の内、何食わぬ顔で、私に頼って来るだろ。
其の時に、政略結婚させれば良い。
家元夫人も、総二郎の事は、放って置きなさい。」
家元夫人は、家元の言葉に、信じられないで居た。
そして、当の家元は…。
「此の後は、予定が入っているから、今から、出掛けて来る。」
家元の其の言葉に、家元夫人は、何も言わないが…。
家元夫人の心の中では…。
“女性の所にお出掛けですよね?”と、悪態を突いて居た。
未だに、お盛んな家元に、家元夫人は、腹が立つ事を通り越して、呆れるしかなかった。
家元夫人の目には、総二郎の方が、真面に見えて来ていた。