好きなのに…(続編)<総優> 2.
【恋人 編】
座るなり、総二郎から切り出した。
「………、何だよ。」
家元夫人は、総二郎を無視した形で、家元に優紀を紹介し始めた。
「家元、此方が私(わたくし)の愛弟子の松岡優紀さんですの。」
「そうか。
私が、総二郎の父親の西門修一郎だ。
宜しくお願いするよ。」
優紀は最初が肝心と、きちんと、自己紹介をした。
「家元、お初にお目に掛かります。
宜しくお願い致します。」
「優紀さんの事は、家元夫人からも色々聞いているよ。
愚息の総二郎を男にしてくれて感謝しているよ。
何を言っても、女遊びを止めなかった総二郎が、優紀さんに再会してから、女遊びを止
め、お茶の味まで変わるとは…。
全て、優紀さんのお陰だよ。
西門流の重鎮までもが、“(総二郎に)何が有ったんだ?”と、聞いて来る始末なんだ
よ。
前の総二郎は次期家元に相応しく無いと、言われていたのに、今では、誰も何も言わな
くなり、文句の一つも言っていた重鎮達からも、何も言われなくなったんだよ。
此れもそれも、優紀さんのお陰だよ。
感謝しているよ。」
「………、私は何も致して折りません。
偶々だと、思います。」
総二郎は居た堪れない気分で居た。
「………、俺は、そんなに酷かったって、言うのかよ⤵。」
「当然だろ。
全く、お見合いの話し等も入って来なかったと言うのに、ここ最近では、お見合いの話
しは山程入って来てるんだ。
それが答えだろ。」
総二郎はヤバいと、思わず、優紀の顔を見た。
「………、親父、その話しは…。」
家元夫人も慌てて言い訳めいた言葉を発していた。
「あっ、あなた…。
優紀さん、気になさらないでね。
全て、お断りしているのよ。
優紀さんが居るんですもの、当然ですけどね。
それだけ、総二郎が変わったって事が言いたかっただけだから…。
そうですよね、家元。」
家元は珍しくポーカーフェイスが崩れそうになっていた。
家元夫人がフォローしてくれたので、良かったと言うべきか。
「そう言う事だよ、優紀さん…。」
優紀は一人冷静で居た。
「分かっていますので、大丈夫です。
お気遣い有難うございます。」
家元夫人は、尚も語り掛けた。
「それにね、西門家としては、優紀さんにお嫁に来て頂きたいの。」
「………、それは~?」
尚も、家元夫人は優紀の弱いで有ろう処を付いて来る。
「あら、優紀さん、総二郎との未来の事は考えられないって事?」
「………、いいえ、そんな事は…。
しかし、私は一般家庭の娘です。
西門家にはそれ相当の子女がお似合いだと思うんです。
総二郎さんとの事は、そんな簡単に考えている訳ではありませんが…。」
更に、家元夫人は畳み掛ける。
「あら、優紀さんの後ろには、後ろ盾になって下さる三条の大奥様がいらっしゃるのよ。
親しくなさっていらっしゃると思っていたけれど…、違うの?」
「親しくして頂いて居ると言うのか…。
私が親しくして頂いて居るのは、寧ろ、お祖母様のお孫さんの桜子さんの方ですし…。
えっ?
って、事は…?」
優紀は首を傾げながら、確認するように尋ねた。
「そうだよ、優紀さんの思っている通りだよ。
三条の大奥様が優紀さんの後見人になって下さったんだよ。
誰も、重鎮でさえも文句は言えないんだよ。」
「「………」」
総二郎と優紀は何も言えないでいた。