人間恐怖症…<つかつく> 56.
美桜は、司の腕の中から離れる様に、自身の両腕を司の肩に置き、司の肩を押したのだ。
だが、司は、咄嗟に、美桜の肩を、自身の両腕で掴んだのだ。
其れは、まるで、美桜が、司から離れない様にするかの様だったのだ。
司は、分かって居たのだ。
例え、美桜が、『牧野つくし』としての記憶が無く共…。
美桜の中には、潜在意識として、『牧野つくし』が存在している事を…。
だから、司には、其の後の美桜の出方位…。
手に取る様に、分かるのだ。
だから、司は、咄嗟に、美桜の肩を掴めたのかも知れない。
そして、其の時の美桜は、司に言葉を紡ごうとして居たのだ。
だが、司は、そんな美桜の言葉を阻止するかの様に…。
美桜の言葉に重ねて、言って除けるのだった。
「あの…。
私には…。」
「美桜には、俺の記憶がねぇって、言いてぇんだろ?」
其の時の美桜は、素直に、頷くのだった。
なので、司は、更に、美桜に話しし始めるのだった。
「其れでも、俺には、美桜しか居ねぇんだよ。
俺にとって…。
美桜の中に、俺の記憶が有ろうと…、無かろうと…。
そんな事は、どっちだって、良いんだよ。
『お前』が、『お前』成らば…。
其れは、どっちだって良い。
『お前』の記憶は、俺の中に有る。
だから、此れからは、俺 と 美桜 と 潤 の3人の思い出を作って行けば良い。
俺と美桜の間には、既に、『潤』が居る。
俺と美桜は、夫婦だ‼
少なくとも…。
俺は、そう思ってる。
だから…。
美桜も、俺に、頼ってくれ‼」
だが、美桜には、“そんな厚かましい事は出来ない。”と、頑なに思うのだった。
美桜の中では、過去の記憶が無い事は、司との壁を作る要因に成って居たのだ。
否…。
美桜の中では、過去の記憶が無い事は、不安に成って居たのだ。
だが、其処は、司だったのだ。
自身も、『牧野つくし』の記憶を失くして居た時期が有ったのだ。
美桜が、不安に思って居るだろう事は、今の司には、痛い程、分かり切って居たのだ。
だから、美桜に、或る物を見せた司だったのだ。
其の或る物とは…。
実は、タマが提案して、タマが用意した物だったのだ。
其れは、昨夜の事だったのだ。
司が帰宅した時に、タマは、司を出迎え、司の部屋に、司と共に一緒に入った時の事だったのだ。
司は、徐に、タマに、言って除けるのだった。
「タマ…。
明日…。
美桜と潤に会って来る。」
司から、そんな話しを聞いた其の時のタマは、驚愕したのだった。
勿論、タマも、知っては居たのだ。
ここ最近は、集まって居ない様子だが…。
度々、道明寺邸で、F4&T3&椿&進が集まり、『牧野つくし』の件を話し合いして居た事は…タマも知っては居たのだ。
だが、其の当時のタマは、現在の『牧野つくし』の名前までは、確認して居なかったのだ。
何故なら…。
使用人頭として、お客様が居らっしゃる其の場所に、何時までも、居座る訳にはいかないのだ。
其れに、道明寺邸の各部屋は、防音壁に成って居て、外からは、声を聞き取る事は出来ないのだ。
『牧野つくし』について、椿から話しは聞いて居たのだが、現在の名前に関してまで…。
タマは、椿から、聞いて居なかったのだ。
だからこそ、現在の『牧野つくし』の名前までは、椿だけじゃ無く、司からも、確認して居ないタマだったのだ。
ましてや、『潤』という名前を知らないタマは、更に、テンパって居たのだった。
だからだったのだろう。
タマは、目を見開いたまま…。
司に確認するのだった。
「坊っちゃん…。
タマは、其の様なお名前の方々を存じ上げて居りません。
其の方々は、坊っちゃんにとって、どの様な方々ですかい?」
だが、司は、既に、タマも知って居ると思って話しして居たのだ。
実は、タマは、誰からも、話しを聞いて居なかった事に、驚愕の司だったのだ。
なので、司は、徐に、携帯を取り出し、進から送って貰った例の画像と動画を、タマに見せるのだった。
「タマ…。
此れを見れば…。
タマでも分かるだろ?」
タマは、其の画像と動画を観て、驚愕で、直ぐには、言葉を発する事が出来なかったのだ。
唯、一言…。
「坊っちゃん…。」と、発しただけだったのだ。
司は、そんなタマを観て居て、「ククッ」と、笑って魅せたのだった。
何故なら…。
タマの驚愕振りは、司にとってして視れば…。
圧巻だったのだ。
だからだったのだろう。
司は、そんな携帯画像 や 動画を、何時までも眺めて居るタマに、言って除けるのだった。
「此れで、分かっただろ?
現在の『牧野つくし』は、古菱家の長女で、名前は、『古菱美桜』って、名前…何だ。
そして、其の隣に写って居るのは、俺と美桜の息子…。
『潤』って、名前…何だ。」と…。
其処で、また、タマは、言葉が発せなく成る程…、驚愕するのだった。
唯、やっと、タマが、発する事が出来た言葉は、唯、一言だったのだ。
「何時の間に…。」
だから、司は、タマに、言って除けるのだった。
「タマは、覚えてるか?
俺が、暴漢に襲われた日の事…。」
なので、タマは、司に即答するのだった。
「勿論、覚えて居るださね。」
なので、司は、頷き乍ら、タマに、更に、話しし始めるのだった。
「其の日の前日に、俺と牧野は、滋に寄って、拉致られたんだ。
其の拉致られた大河原家のクルーザーの中で、俺と牧野は、そういう仲に成った。」
其の時のタマは、“倒れるのでは無いか?”と、司が危惧する位…。
驚愕して居たのだった。
そして、タマは、やっとの事で、言葉を発するのだった。
「まさか…?
坊っちゃん…。
つくしに、無理矢理って事は無いださね?」
だが、司は、タマに言って除けるのだった。
「無理矢理っていうか?
成り行きでそう成った。
だが…。
最終的には、牧野は、俺に言ってくれた。
“こう成ったのは、私にも責任が有るから…。”と…。
だが、牧野だけが悪ぃじゃねぇ。
責任を取るべきは、俺…何だ。
だが、俺は、男として、未だ、責任が取れてねぇ。
だから、俺は、『美桜』と成った『牧野』と…。
俺の息子の『潤』への責任と今までの償いをしてぇんだ。」
「坊っちゃん…。」
実は、此の時のタマは、其れ以上の言葉が出て来なかったのだ。
其処で、司は、今の不安な気持ちを、タマに伝えるのだった。
「だが…な。
不安が残るんだよな。
タマも、観ただろ?
『潤』の容姿は、俺の息子らしく…。
俺のDNAを、諸に、受け継いで居るのに…よ。
当の美桜が、其の事を信じねぇとも限らねぇ。
美桜の中身は、『牧野つくし』だから…な。
もし、『牧野つくし』の鈍感さが、其のまま…美桜に、受け継がれてても可笑しくねぇ
だろ。
だから…よ。
不安…何だよな。」
其処で、タマは、司に提案するのだった。
「でしたら…。
坊っちゃんの幼少期の頃のお写真をお持ちに成れば…如何ですかい?
現在の潤坊っちゃんのお歳は、お幾つですかい?」
司は、潤の年齢までは、把握して居なかったのだ。
だから、司は、タマに伝えるのだった。
「すまん。
潤の歳までは、把握してねぇ。」
なので、タマは、溜息を突き乍ら、司に、言って除けるのだった。
「はぁ~⤵。
仕方ないねぇ。
でしたら…。
坊っちゃん…。
お訊きしますよ。
現在の潤坊っちゃんは、幼稚舎に通われて居るんですかい?」
なので、今の司は、推測でしか無いのだが…。
司は、タマに言って除けるのだった。
「まだ、行ってねぇと思う。」
なので、そんな司の言葉に納得したタマは、司に返答するのだった。
「明日の朝…。
坊っちゃんの幼少期の頃のお写真をご用意して、坊っちゃんに預けますから…。
いざという時は、其のお写真を『つくし』に見せれば良いださね。」
そして、次の日の朝…。
司は、タマから、例の写真を預かって居たのだ。
そして、司は、其の写真を、美桜に見せる事にしたのだった。
其の写真を観た美桜は、首を傾げ乍ら、言葉を発したのだった。
「此の写真…。
潤…?」
だが、司は、真顔で、美桜に返答するのだった。
「そんな訳ねぇだろ⁉
此の写真には、時代を感じるだろ?
此の写真は、俺のガキの頃の写真だ。
良~く、観て視ろよ‼」と…。
そして、じーっと、其の写真を観て居た美桜は、驚愕するのだった。
そして、司が、嘘を付いて居る訳では無い事を認識した美桜だったのだ。