人間恐怖症…<つかつく> 80.
実は、古菱社長は、牧野夫妻のお墓参りに、美桜を連れて行った後の事が気に成って居たのだ。
自身から、進に、お墓参りの件を提案したにも関わらず…だった。
“もし、美桜が、記憶を取り戻す事に成ったら…。
妻は、如何成るのだろうか?”と…。
だが、其の後、数日経っても…。
美桜の記憶が取り戻された形跡が、見当たらなかったのだ。
実は、此の時の古菱社長の心の中では、そんな思いが、杞憂に終わった事に、ホッとして居たのだった。
其れ処か?
其の後の美桜の中に、何か変化が起こって居たのだ。
美桜の目付きが、柔らかく成って居たのだ。
其れは、司や進だけでは無く…。
古菱邸に、長らく携わって来た執事…。
そして、古菱邸の使用人頭にも、見て取れて居たのだった。
また、古菱夫人にも、美桜の変化を感じ取って居たのだった。
実は、美桜の変化を肌で感じ取っていた古菱夫人は、自身の夫で在る 古菱社長にも話しして居たのだった。
「最近の美桜は、何か有ったのかしら?
美桜の目付きが、柔らかく成って居る様に感じるの。」と…。
自身の妻で在る 古菱夫人から、そう話しされた古菱社長は、思うのだった。
“美桜の頭の中には、記憶が無く共…。
今迄の美桜の頭の中では、何処か?
蟠りが有ったのだろう。
美桜が、牧野夫妻のお墓参りに行った事で、美桜の心の中に有った重い鎖の様な物が、
取れたのかも知れんな。
否…。
きっと、そうなのだろう。”と…此の時の古菱社長は、更に、感じて居たのだった。
だからだったのだろう。
古菱社長は、古菱夫人に返答するのだった。
「美桜にとっては、良い事じゃ無いのか?」と…。
「………」
自身の夫で在る 古菱社長から、そう言われた古菱夫人は、其の後…。
古菱社長への返答の言葉が見付からず…。
黙ってしまったのだった。
また、其の後の美桜は、本当に、柔らかく成って居たのだった。
何処か?
司とも、壁を作ろうとしていた今までの美桜だったのだが…。
司が、古菱邸に現れた際にも、今迄とは違う、心の底から歓迎しているかの様な笑顔を、美桜は、司に向ける様に成ったのだ。
其の歓迎振りは、美桜の声にも表れて居たのだった。
今迄の司は、美桜から言われた事の無い言葉を掛けられる様に成って居たのだった。
「お帰りなさい。」
今迄の美桜は、司が古菱邸に現れる時は、こう挨拶して居たのだった。
「いらっしゃいませ。」と…。
まるで、司にとっての美桜からの挨拶は、何処か?
他人行儀に、挨拶されていると捉えて居たのだった。
だからだったのだろう。
寂しくも有った司だったのだ。
だが、お墓参りから帰って来てからの美桜は、目に見えて変わったのだった。
其れに、司には、もっと、嬉しい事が有ったのだ。
司が、何時ものルーティンの如く…。
潤と遊んで遣り、一緒に、お風呂に入り、寝かし付けた後…。
司は、美桜と話しするのだが…。
今までの美桜は、何処か?
司には、余所余所しかったのだ。
だが、最近の美桜は、話す内容まで、変わったのだ。
其れは…。
【潤が、其の日、何をして、過ごしていたのか?」とか…。
または…。
【美桜と潤の其の日の出来事】とか…。
美桜は、司に話す様に成ったのだった。
だからだったのかも知れない。
何時も、司は、0:00過ぎには、古菱邸を後にして、道明寺邸に帰る様にして居たのだが…。
其の日の司は、帰る事が辛く成って居たのだ。
所謂、其の時の司の心情は、帰りたく無かったのだ。
だが、未だ、美桜から、良い返事のもらえて居ない司にとって…。
古菱夫妻への建前上…。
帰るしかない司だったのだ。
だが、此の時の司にして視れば…。
後ろ髪を引かれる想いだった事は言うまでも無いのだ。
だからだったのだろう。
司は、思わず、美桜の腕を、自身の方へ引き寄せて、抱き締めてしまったのだ。
そして、司は、美桜に言ってしまったのだ。
「美桜…。
俺は、美桜の事が好きだ‼
否…。
愛してる。
けど…。
今の美桜は、まだ、俺の事を、如何も、想ってねぇだろ?
だから、今日は、帰る。
けど…よ。
俺の想いに、一日でも早く、応えてはくれねぇか?」と…。
だが、此の時の司には、思っても視なかった言葉を、美桜から、聞く事に成るのだった。
「司さん…。
実の事を言うと…。
未だ、司さんへの想いは、私には、分からない事も有るんです。
でも、先日の養父母(牧野夫妻)のお墓参りに行った際に…。
何か?
すっきりした物を感じたんです。
心の中が軽く成ったというのか?
今の私には、其の正体が何のか?
全く、分かりません。
でも、お墓参りに行って良かったと思って居るんです。
司さんにも、素直に成れている気がするんです。
だから、もう少しだけ、待ってもらっても良いですか?」と…。
実は、司には、理解されて居たのだ。
過去の記憶の無い現在の美桜の頭の中では、牧野夫妻が、養父母に成って居る事を…。
完全に、記憶のすり替えが、美桜の頭の中では、起こってしまって居たのだ。
だからだったのかも知れない。
お墓参りから帰って来てからの美桜が、其れでも、記憶を取り戻す事無く、未だ、『古菱美桜』として、生活出来て居たのだろう。
だが、そんな話しを、美桜から聞いた司は、嬉しく成り、返答するのだった。
何時も寄り、1トーン高めで…。
「ああ。
何時迄も、俺は、待てる。
だから…よ。
美桜…。
俺の想いに、応えてくれよ‼」と…。
そして、美桜も、素直な気持ちのまま…。
司に返事するのだった。
「はい。」と…。
そして、そんな美桜を観て居た司は、思うのだった。
“そろそろ、俺の想いを全うしてぇ。
古菱社長は、怒るかも知れねぇが…。
相談する価値は有るかも知れねぇ。”と…。
なので、司は、次の日に、西田に話しして、古菱社長にアポを取る様に、伝えるのだった。
此の時の西田にとってして視れば…。
司の心の中の変動位は、手に取る様に分かるのだった。
だからこそ、此の時の西田は、思えたのだろう。
“やっと、司様は、スタートラインに立たれたのだろう。
何か?
美桜様の中にも、変化が現れたのかも知れない。
取り敢えず、司様の想いを、貫いて頂かなくては…。”と…。
だからだったのだろう。
西田は、司の想いを伝えるべく…。
古菱社長の秘書に、連絡を取り、アポを取り付けるのだった。
此の事に寄り…。
司は、会食という名目で、お昼の時間帯に、古菱社長と会う事に成ったのだった。
其処で、司は、古菱社長に、自身の想いを、話しし始めるのだった。
此れには、驚愕する古菱社長だった事は言うまでも無いのだ。
だが、司の想いは、其れでも、変わる事は無かったのだ。
“今が、チャンス‼”と、考えて居る司にとってして視れば…。
此の機会を、逃す訳にはいかなかったのだ。
だからこそ、司は、真剣に、古菱社長に訴えるのだった。