イタキス…<イリコト> 中編
あの入学式以来、直樹は、琴子が気に成って仕方なかった。
だが、それが態度で表せない直樹が其処には居たのだった。
琴子に態と、素っ気ない態度を取り、意識している素振りも見せようとしない直樹が其処には居たのだった。
その結果、琴子との距離がどんどん離れて行く直樹が居たのだった。
その態度から、直樹の親友の渡辺だけは、直樹の気持ちが手に取る様に分かって居たのだった。
一方、琴子は、直樹に素っ気ない態度をされようが、琴子も直樹の存在が気に成って居たのだった。
だが、琴子は、F組のアイドル的存在。
琴子の周りには、誰かしら、男子が近付こうとしていた。
いつも、親友の理美とじん子と一緒に居る様にしていたのだが、金之助が琴子の傍に無理矢理、居ようとしていた。
何故なら、入学式に遅れて来た琴子は、ある意味、目立って居た。
だが、金之助は、その恐縮して会場に入って来て居た琴子の姿に、可愛さを見出し、一目惚れしてしまったのであった。
だから、琴子の彼氏でもないのに、彼氏の座を狙っている金之助は、“琴子に変な男が寄って来たらあかんから、わしが傍に居ったる‼”と、常に琴子の傍に居ようと必死の金之助だった。
其れが、また、鬱陶しく思う直樹だった。
そんな日々が2年続いていた。
直樹と琴子達は、3年生に成った。
未だに、琴子は、直樹が、あの、『なお』ちゃんだとは気付いて居なかった。
3年生に進級して直ぐ、琴子の周りで有る異変が起こった。
それは、東京で起こった震度2の地震で、相原家の新築の自宅が、手抜き住宅だった為、倒壊してしまった。
その事を知った重樹が、紀子に相談して、重雄の自宅を再建するまでの間という約束事を取り交わし、入江家と相原家の同居を提案した。
勿論、紀子は大賛成だった。
そして、如何にか、入江家と相原家の同居が始まった。
唯、直樹からの提案で、琴子は、“誰にも同居の事は内緒だ‼”と、言う約束事を取り交わす事に成った。
だが、琴子は、知らなかった。
同居する家は、あの、『なお』ちゃんの家だったとは…。
そして、同居し始めた早い段階で、紀子は琴子に有るアルバムを見せていた。
「琴子ちゃん、この子、覚えてる?」
「あっ、なおちゃんっ‼」
「そうよ、覚えてたのね‼
うふふ、なおちゃんよ。
この子、誰かに似てない?」
琴子は、首を捻っていた。
分からないと言った仕草で、紀子の方を向いていた琴子だった。
「この子、直樹なの‼」
「へっ??」
琴子は、紀子の言って居る意味が全く理解されていない様子だった。
「そうよね。
琴子ちゃんは、『なお』ちゃんは、女の子だと思って居たのよね?」
「えっ、違うんですか?」
「男の子だったの‼」
琴子は、驚愕していた。
「はぁ~??」
琴子の驚愕振りを見て、紀子も当然だと、納得していた。
「そうよね、そう成るわよね‼
でもね、嘘じゃないのよ‼」
紀子は、琴子の顔色を確認しながら、話しを続けて居た。
「実はね、ママはね、娘が欲しかったの。
でも、生まれてきた子は男の子…⤵。
直樹はね、赤ちゃんの頃から、可愛らしい顔をしていたから、女の子の服を着せてた
ら、皆、女の子だと思ってね、“可愛らしいお嬢ちゃんだ事…‼”。
何て、言われて、その気になってね、直樹が幼稚園に入っても、女の子の服を着せて
たの。
そしたらね、その事が直樹にバレちゃって…⤵。
だから、あんな息子(こ)に成長してしまって…。
まあ、ママが悪いんだけど…ね。」
紀子は、寂しげな顔付きで琴子を見ていた。
「だからね、琴子ちゃんがママの娘に成ってね‼」
「えっ??」
「だからね、琴子ちゃんは、お兄ちゃんのお嫁さんに成れば良いのよ‼」
そう言ったまま、顎に右手の手の甲を添えながら、高らかに笑いながら、紀子は琴子の部屋を後にした。
「おぉ~ほほほほほほ‼」
驚愕したままの琴子は、何も発せないまま、呆気に取られていた。
紀子の居なく成った琴子の部屋で一人、取り残された琴子が、唯、一言、発した琴子の言葉は…。
“嘘っ‼”だった。