出会ってしまった…<つかつく> 12.
<司side>
俺達は、促されるまま、ソファに腰を落とした。
早速、社長より、提携の話しに入って行った。
だが、その前に、礼とは名ばかりで、如何しても、牧野を取り込みたがっているのが、少なくとも、俺には、良~く分かって居た。
「提携の話しに入る前に、私からも、牧野さんにお礼を言わせて頂きたい。
牧野さんのお陰で、母は助かったんです。
本当に有難う御座いました。
出来れば、義理でも、私の娘に成ってもらえたら、もっと良かったんですが…。」
「そのお気持ちだけで充分です。
有難うございます。」
一拍置いて、社長が喋り出した。
「では、提携の話しですが…。
牧野さんが担当に成ってもらえる事は間違い無いですね?」
この件については、俺始動で話しを進めていた。
「勿論です。
唯、条件が有ります。
先日もお伝えした通り、牧野は、弊社に入社して、まだ僅か、1か月です。
私が、牧野の補佐に就く事はお許し頂きたい。」
「常に、同行されるという事で宜しかったですか?」
「申し訳ありません。
まだ、独り立ちさせられる程の経験が有りません。
それ故、経験を積ませる為にも、私が、補佐で就きたいと思って居ます。」
「公私混同では無くですか?」
「勿論です。
第一、牧野は、生真面目な人間です。
私が、その様な事をしても、嫌がる女性です。
仕事は、仕事と、切り離して執務致しますので、ご了承願いたいと思います。」
先方の会長と社長が目配せで、何か伝え合いをしていた。
そして、社長が喋り出した。
「承知しました。
では、提携致しましょう。」
「ご配慮に感謝します。」
社長は、牧野の方を向いて話しして居た。
「此れからは、牧野さん、提携企業として、宜しくお願いしますよ‼」
「はい、宜しくお願い致します。」
そして、また、社長は、俺に目線を向けて来た。
だから、俺から、話しを進めた。
「では、提携に関しては、弊社の社長同席の下で、行いたいと思います。
また、日にち調整を宜しくお願いします。」
「賜わりました。
秘書の方で、調整をしましょう‼」
「賜わりました。」
俺は、西田の方を向いて、頷いた。
西田も、了承の頷きをしていた。
牧野と一緒に仕事を出来る事が嬉しくて、俺は堪らなかった。
それ故、俺は、牧野の戸惑いを見て居なかった。
そして、帰りのリムジンでは、西田には、助手席に乗る様、俺は指示を出した。
俺は、牧野を労って遣りたかったし、牧野と二人っきりに成りたかったと言うのもあった。
「牧野、如何した?」
「いいえ、何でも有りません。」
「此れからが、大変だぞ‼
俺を信頼しろ‼
お前をしっかり育てて遣るから…。」
「はい、宜しくお願いします。」
「ああ。
お前に言って於く。
俺は、公私混同する気はねぇ‼
だが、俺がいつも傍に居る事は忘れるな‼
俺は、お前といつも一緒に居てぇと思ってるから…な。」
「………」
牧野は、何も応えねぇ‼
俺は、その時は、“牧野は、照れてるのか?”と、思っていた。
其の全てが大きな間違いで有ると、後で気付いた俺だった。
<西田side>
司様が、私に助手席に座る様、促された時点で、嫌な予感はしていた。
道明寺HDに着いた時には、牧野さんの顔色は、蒼褪めていた。
多分、司様に圧倒されているのでは無いかと、推測出来た。
司様は、余りにも、あの場で、牧野さんが本当に司様の恋人で在るかの様に振舞い過ぎて居ると、私でさえも認識せざるを得なかったのに、牧野さんなら、驚愕では済まなかった事でしょう。
如何したものかと考えるしかなかった状況だった。
<楓side>
全ての報告を西田より受けた。
司の暴走振りは予想出来たが…。
早くも、牧野さんが戸惑いを見せ出したと成ると、司を一旦、牧野さんから引き剥がさなければいけないかも知れない。
そう成れば、間違いなく、司の士気が落ちる事は分かって居る。
如何すれば良いものかを、会長で在る私(わたくし)の主人に相談する事にした。
<保side>
楓から、相談を受けた。
しかし、『藪から棒』に、司から牧野さんを引き剥がさす事も逆効果に成る。
此処は、慎重にすべきだ。
まだ、プロジェクトも何も進行して居ない。
成らば、様子を見ようと楓に伝えた。
唯、一言だけ、司に伝える様に言って於いた。
「余り、暴走する様なら、司をNYに戻す。」と…。