馬鹿だよな、俺…<総優> 9.
<総二郎side>
俺は、気付いちまったんだから…。
後は、優紀を取り戻すだけだ。
勿論、息子と共に…な。
俺は、唯、そう思って居た。
しかし、其の中年女性から、確信を突かれていた。
「じゃあ、身重の優紀を、何故、一人にしたの?」
「其れは…⁉」
優紀は、慌てて、俺の言葉を遮って来た。
「先生…‼
其れは、私が西門さんから、逃げたんです‼
留学を機に…。」
「でも、そうさせるだけの理由が、彼には有ったって言う事よね?
違う?」
俺は、正論を言われて、反論する気も無かった。
「そうです。
全ては、俺に責任が有ります。」
「ふ~ん、意外と、男らしい所が在った様ね。
世間じゃあ、『遊び人だ‼』と、聞いて居たから…?
てっきり、優紀も遊びの一人に置いて居たのかと、思ったんだけど…?」
成程、そう言う事か?
「優紀との事は、論外ですよ‼
優紀とは、決して、遊びじゃねぇ‼
真剣に付き合ってました。
浮気もした事も、二股を掛けた事も有りませんよ。」
「じゃあ、『優』の事は、如何するつもり…?」
俺は、間髪入れずに答えて遣った。
「子供だけじゃなく、優紀と結婚して、子供を認知するつもりです。」
「そう、其れは、良かったわ。
何時までも、戸籍の無い子にする訳に行かないものね。」
俺は、優紀の顔を見詰めてしまった。
多分、今の俺の顔は、驚愕顔に成って居ると思う。
俺の息子に戸籍がねぇって、如何言う意味だ‼
俺は、驚愕だけでは済まねぇと、思って居た。
そして、優紀に追及する俺が居た。
「優紀、如何言う意味だ?」
優紀は、息子を抱きながら、俯き加減で、俺に言って来た。
「留学を決めてから、妊娠している事に気付いたんです。
両親にも言って無かったし…。
日本で出産して、『松岡』の戸籍に入れれば、何れは、私が出産した事がバレて、私
が、優一郎を育てる事が出来ないと、思ったので…。
両親にも何も言わず、留学先のイギリスに渡英したんです。」
優紀は、申し訳無さそうにしていた。
そして、その後を引き取る様に、優紀が、先生と呼んでいる中年女性が、俺に話しをして来た。
「優紀と私は、優紀の留学先の大学で知り合ったのよ。
私は、その大学で教授をして居たの。
で、日本人留学生が、大学内で倒れたと聞いてね。
その倒れた留学生と言うのが、優紀だったって訳。
優紀が、妊娠していると聞いてね。
私は、優紀を放って置けなくてね。
それ以降、私は、優紀の傍に居たのよ。
まあ、勝手に母親役をしていた様なものね。」
「優紀の傍に居て下さって、有難うございました。」
俺は、驚愕以外に無かった。
もし、此の『先生』が、優紀の傍に居なかったら…?
優紀は、如何成って居たかも知れなかったという事実に…。
俺は、寒気だけでは済まなかった。
此の先生に感謝の言葉以外、浮かばなかった。
そして、俺は、優紀を責める事は出来ねぇと悟った。
そうさせたのは、俺…だから。
俺は、一生、優紀に償わなければいけねぇ事が、また、増えたと、解釈していた。
<優紀side>
何もかも、西門さんにバレてしまい、私は、隠す事は、もう、何も無かった。
でも、やっぱり、黙って居た事に関して、西門さんに後ろめたさは有った…。
優一郎を抱き締めながら、俯いて居た。
そんな時、西門さんが、私から奪う様に、優一郎を抱き上げた。
そして、私に、聞いて来た。
「優紀、俺の息子(こ)…だよな?
俺に瓜二つ、何だ‼
優紀が違うって、言っても、俺は信じねぇからな?」
そう言われてしまえば、何も反論も出来ずに居た私だった。
「はい、そうです。」
「分かった。
これからは、親子3人一緒だから…な?
良いな、優紀?」
「………」
そう出来れば幸せだろうけど…。
勝手に産んで、勝手に育てて居た私を…。
私の両親もそうだろうけど…。
西門家、所謂、西門さんのご両親で在る家元と家元夫人が、そんな勝手をした私を許す訳が無い事は、一目瞭然だった。
だから、ニコっと、笑うしかなかった私だった。