まだ、知らない世界…<つかつく> 7.
【桜子の回想…。】
あの日から、数日が経った。
私は、先輩の様子を、常に、注意深く観て居た。
だが、先輩は、私の不安な心とは、裏腹に、いつも通り…。
いいえ、いつも以上に、仕事に没頭していた。
先輩の其の姿が、返って、私を不安にさせていた。
そんな時だった。
受付から、秘書課に連絡が入って来た。
「三条専務…。
受付に、『道明寺椿』様という女性が、お見えでございます。
社長とお会いに成りたいそうですが、アポをお取りではないとの事でございます。
如何致しましょうか?」
私は、少し考えて…。
“1階の応接室なら、先輩にバレずに、私が、椿さんにお会いする事が出来る。”と、考えていた。
だから、私は、受付に伝えた。
「分かりました。
私が、伺いますので…。
1階の応接室にお通しして於いて下さい。
此の件は、くれぐれも、社長には、伝えない様に、申し送りをお願いします。」
「承知致しました。」
そして、私は、秘書課の部下に同じ事を伝えて、急いで、1階に向かった。
そして、私は、応接室に入り、椿さんと対面した。
椿さんは、私だけが、応接室に入って来た事に落胆の色が濃く成って居た。
椿さんは、先輩に会えるとでも思って居たのだろうか?
「ご無沙汰しております、椿さん。」
「貴女は…確か?
つくしちゃんの後輩の…?」
私は、躊躇せずに、椿さんに答えていた。
「はい、そうです。
三条桜子と申します。」
「ところで、つくしちゃんは…?」
私は、先輩と会ってもらえない事を椿さんに伝えて居た。
「先輩には、会ってもらう訳には参りません。」
「何故…?
司が、つくしちゃんを待って居るの?」
「十分過ぎる位、存じ上げております。」
椿さんは、私の最後の言葉を待てないかの様に、間髪入れずに、言葉を紡いでいた。
「貴女が、其処まで、分かって居るのなら…。
私に、つくしちゃんと会わせて欲しいの?」
「其れは、難しいご相談かと、思います。
椿さん…?
道明寺社長が、先輩に為さった事を忘れたとは、仰いませんよね?」
「ええ、今でも、はっきり、覚えて居るわ‼」
私は、呆れた様に、椿さんに声を掛けていた。
「じゃあ、“難しい。”と、申し上げた私の言葉を、椿さんなら、ご理解頂けますよね?」
「………」
椿さんは、何も、発せない様子だった。
だから、私は、尚も、椿さんに言葉を継げた。
私は、先輩の為なら、『鬼にも夜叉にも』成れるんです。
椿さん、覚悟をして於いて下さい。
「先輩は、もう、弊社の社長です。
一国の主の様なものです。
其の事が分かって居て、一国の主で在る 弊社の社長…。
先輩が、窮地に陥る処を、私は、唯、観て居る訳にはいかないんです。」
椿さんは、私の言葉に怪訝な顔付きに成って居た。
だから、私に、訊いて居たのかも知れない。
「じゃあ、貴女は、司につくしちゃんを会わせるだけで、つくしちゃんを窮地に陥れると
でも思っていらっしゃるの?」
「はい。
はっきり、申し上げます。
私の祖母は、道明寺社長の大伯母に当たるそうです。
其の祖母が、道明寺家の窮地を救ったのでは無く、先輩を救ったという事が、如何いう
意味を成すかを、椿さんなら、ご理解頂けるかと思います。
弊社 社長は、祖母のお知り合いの企業経営者の皆様から、可愛がって頂いて居りま
す。
また、弊社 社長が、NYで、お知り合いに成ったという、クラウンCEOも、弊社 社
長を可愛がって下さっています。
皆様、道明寺社長が為さった数々の弊社 社長への仕打ちを、良くは思っていらっしゃ
いません。
其れ程までに、弊社 社長を可愛がって下さって居る皆様を、弊社 社長が、裏切る様
な事が、もし、有った成らば、弊社は破滅です。
其の事を分かって居て、私は、見す見す見過ごす訳には参りません。
椿さん…?
もう、先輩に会いに来ないで下さい。
また、先輩には、会おうと思わないで下さい。
先輩の気持ちに揺さ振りを掛けないで下さい。
お願いします。」
「………」
椿さんは、言葉に成らないみたいだった。
だから、私から、椿さんに追い打ちを掛けていた。
「先輩から、道明寺さんを奪う事は、道明寺社長の目的だった筈…ですよね?
結果的に、そう成ったのですから…。
道明寺家にとっては、此の状況は、喜ばしい事じゃないのでしょうか?」
「………」
尚も、椿さんは、言葉を発せないで居た様子だった。
で、私は、此のまま、お帰り頂く様に、椿さんを促していた。
「椿さん…?
此のまま、お帰り頂いても宜しかったでしょうか?
私は、業務に戻りたいと思います。」
「………」
椿さんは、何も、発せないまま、落胆の色が濃いまま、お帰りに成った。
私は、『黒歴史』時代の私に戻って居る事を痛感し、心を落ち着かせる様に、自分自身に言い聞かせ、秘書室に戻って来て居た。
私が、先輩に何も伝えず、椿さんに会った事は、必要不可欠な事で…。
先輩にバレない様にする事は、私の仕事だと思って居た。
其れは、私が先輩に仕える身として、成り寄りの仕事で在るという認識の下、以前から、動いて居た事だったからだ。
だが、私の此の認識が、先輩を苦しめる時期が来ようとは…。
此の時の私には、まだ、理解して居なかったのだった。
<此の二次小説『まだ、知らない世界…<つかつく> 7.』は、短めに成っておりま
す事をお詫び申し上げます。>