奇跡の出会い…<つかつく> 2.
<司side>
俺は、久し振りに、あいつ等 F3と逢って居た。
会うと言っても…。
幼少の頃から、同じ境遇・同じ立場だったので、話しが合っただけで…。
所謂、一緒に居たというだけの事だったのだ。
其れに、性格のバラバラの俺等 F4は、気が合うという訳じゃ無く、個人個人というスタンスは、幼少の頃から、何ら、変わる事はなかった。
だから、何かするとか、何か話しが有り、盛り上がるとか…。
そう言う事は、別に、俺等 F4に限って無い。
端から見れば…。
何か、詰まらないと思うかも知れねぇが…。
其れが、俺等 F4のスタンスだから、仕方ねぇ。
俺等 F4は、似た環境で育ったというだけで、性格がバラバラなのは、大人に成った今でも、全く、変わらねぇのだから…。
だから、俺等 F4は、会って、楽しみてぇとか?
そういう感じじゃ無かった。
俺等 F4は、一緒に居て、何も考えなくて良い環境が、心地良いだけの事だったのだ。
所謂、毎日の企業戦士としてでは無く、頭を真っ白に出来る場所が、欲しかっただけだったのだ。
そして、一旦、頭を空っぽにして、リフレッシュ出来た俺は、西田と共に、旅館の選定を急いでいた。
そんな時だった。
目欲しい旅館が見付かったのだ。
其の旅館の名は…『老舗割烹旅館 まきの』。
俺と西田は、下見を兼ねて、飛び込みで宿泊して視る事にしたのだ。
先ずは、番頭らしき男に、ロビーに通された。
そして、ソファに座る様に、指示をされた。
「どうぞ、此方に、お掛けに成って、暫く、お待ち下さいませ。」
其の後…。
対応したのが、『若女将』という女だった。
まだ、若い其の女の声のトーンが、俺にとっては心地良く、其の女が、俺に近付いて来ても、俺の身体からは、何の異常も起こらなかったのだ。
其の俺の様子を観て居た西田は、怪訝な顔付きに成って居た様だが…。
至極当然の様に、俺は、自然に、其の女を受け入れていた。
良く考えたら…。
其の時の俺は、今まででは有り得ねぇ俺だった事は言うまでもねぇのだ。
其れに、今までの俺なら、何か身体に異常を起こしても可笑しくねぇ状況だったのだ。
其れが、何一つ、俺の身体には、異常が起こらず、俺自身、其の事に、可笑しいとも思わない事自体…。
俺の周りからすれば、既に、可笑しかった事だったのだろう。
俺は、其の事自体、一切、気が付いて居なかったのだ。
そして、西田が、宿泊名簿に記載が終了した様で…。
俺と西田は、部屋に通された。
勿論、部屋は、特別室に通された。
そして、俺と西田は、部屋に通されて、『若女将』から、挨拶されて居たのだ。
きちんと、三つ指を付いて挨拶して来た。
若いのに…。
俺を観ても、緊張する事無く、『若女将』としての務めを熟している姿に…。
仕込まれている事が、良く分かった。
「当 旅館に、ようこそ、お越し下さいました。
当 旅館の若女将を務めて居ります 『つくし』と申します。
本日は、当 旅館の支配人 と 女将は、地元の旅館組合の会議に出席致してお
りますので、ご挨拶が出来兼ねます事をお詫び申し上げます。」
だから、俺は、了承して於いた。
「否、構わねぇ。」と…。
其の俺の返答にも、此の若女将は、焦る様子も無く、きちんと、受け答えしている姿に、俺は、好感が持てていた。
「有難う御座います。
明日には、ご挨拶出来るかと思いますので…。
では、此れにて、失礼致します。
本日は、御ゆるりとお寛ぎ下さいませ。
何か御座いましたら、内線にて、お呼び出し下さいませ。」
若女将は立ち上がり、部屋から離れ様として居た時だった。
俺は、若女将に声を掛けてしまった。
何か言いたかった訳じゃねぇ。
「あのな…。」
其の俺の言葉に、若女将が振り向いた。
だが、俺は、何か、言う言葉を用意出来ねぇまま、声を掛けてしまったので、何も、答える事が出来ずに居た。
其処に、西田が、俺に呆れた様に、俺の代わりと云わんばかりに、若女将に答えていた。
「何も御座いませんので、大丈夫です。」
若女将は、きちんと、正座をして、軽くお辞儀をし乍ら、返答して来た。
「承知致しました。
では、失礼致します。」
若女将の後ろ姿は、首を捻り乍ら、此の部屋を後にして居た様だった。
<西田side>
私は、司様の反応に気が付いて居たのだ。
司様の反応だけでは無く、司様自身のお身体に、何も異常が起こらない時点で、可笑しいと思うのが普通の事なのだ。
と言う事は、司様の事を知る人物で在る成らば…。
誰もが、此の状況に、驚かない訳が無いのだ。
恐らく…。
否、間違い無く…。
司様は、若女将に一目惚れしたのだろう事は、推測に容易いのだ。
私からすれば…。
司様は、気が付いていらっしゃらない様にもお見受けするが…。
確認の意味で、私は、司様に、問い掛けて視たのだ。
「司様…。
お身体に、痒みは御座いませんでしょうか?」
司様は、飄々と、お答えに成って居られたのだ。
「否、痒みはねぇが…?
西田…。
何故、俺にそんな事を訊いて来るんだ?」
なので、私は、何食わぬ顔で、司様に、更に、訊き出して視たのだ。
「先程の若女将も、女性でいらっしゃいますが…。」
「………」
司様は、何も、お答えに成らず、唯、顔の表情を変えられて、ご自身のお身体を見回されて居た。
私は、態と、司様が、ご自身で、お気付き成られたのか?
確認する意味で、訊き出していた。
「如何(いかが)為さいましたか?」
司様は、顔を強張らせて、私にお尋ねに成られました。
「西田…。
俺は、可笑しいのか?
身体は、赤くねぇし、痒くねぇ。
けど…。
胸の辺りが、苦しいんだよ‼」
“司様…。
やはり、左様で御座いましたか?”と、私は、心の中で、思って居た。